電子材料、電子デバイス、電子部品のメーカー。海外売上高比率91パーセント、海外生産比率88パーセントというグローバル企業で、世界30以上の国や地域に、工場・研究所・営業所など100カ所以上の拠点を展開。日本、アジア、ヨーロッパ、アメリカと各地域・事業分野の優位性を生かした、ワールドワイドな研究開発体制を整えている。スマートフォンなどの身近な電子部品だけでなく、スマートハウスなどの社会インフラの実現にも貢献している。
研修内容
4月1日から約1カ月間の新入社員研修がスタート。1か月間の合宿研修の一環として行われるモノづくり講座は、2001年から導入。「世界一○○な竹とんぼ」をコンセプトに、3秒以上滞空する竹とんぼをつくる。3名が1チームとなり、山から切り出された竹筒を仮想マネーで購入し、竹とんぼの羽を削り出すところから取り組む。予算制限はなく、かかった原価から販売価格を設定し、研修内の仮想販売会で利益を出すことがポイント。講座は、(1)講座の目的や進め方についてのオリエンテーション (2)新製品開発のステップを学び、概要をまとめた計画シートと新製品開発計画書を作成。試作品の製作にとりかかる (3)工程管理表を作成し、設計審査を受ける (4)工程管理表に基づいて2台を量産し、製造原価を算出。収支計画書を作成する (5)計3回のトライで3秒以上滞空するかどうかの出荷検査を行い、研修参加者や教育担当者にプレゼン。製品を展示販売し、利益を確定させ、成績発表するという全5回。実作業に取り組むのは、毎日の研修プログラム終了後の自由時間。講座で提出する計画シート、新製品開発計画書、工程管理表などの書類は、実務と同じものを使用する。
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モノづくり講座で竹とんぼづくりに取り組む新入社員たち。
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参加者全員の前で、3秒以上滞空するかどうかの出荷検査を行う。
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シャボン玉が出る竹とんぼを製作し、見事優勝した辛嶋さん(写真左)チーム。辛嶋さんが手にしているのが、優勝チームの竹トンボ。
体験者インタビュー
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辛嶋伸彦(からしま・のぶひこ)●技術本部材料開発センター。首都大学東京大学院都市環境科学研究科修了。2012年4月入社。携帯電話や車など、生活に身近な製品に幅広く使われている電子部品メーカーに魅力を感じ、子どものころからMDやCD-Rなどでなじみの深かった現社への入社を決意。入社以来、コンデンサの製造プロセスの開発を担当している。
私のチームは、文系1名、理系2名の3人。コンセプト決めが肝心なので、1週間ぐらいかけて案を出し合い、「世界一ワクワクする」をコンセプトに、シャボン玉を吹き出しながら飛ぶ竹とんぼをつくることにしました。文系のメンバーから出てくるいろいろなアイデアを、もう一人のメンバーが具体的に絵にしてくれたので、スムーズにイメージを共有できて助かりました。私は、主に手を動かしてモノをつくる担当。自然に役割分担できたので、うまく連携できましたね。
当初は、プロペラの回転時に発生する風力でシャボン玉が吹き出すイメージで試作したのですが、風が強すぎてどうもうまくいかない。試行錯誤を重ね、結局、発射台から竹とんぼが飛び立つときに起こる風力を利用し、発射台からシャボン玉が噴き出す構造に変更しました。
プレゼンは、どんな展開にすればワクワク感が伝わるかを意識してスライドを用意。売れ行きも上々だったので、優勝することができました。「世界一○○な」を実際につくる難しさを痛感しましたが、優勝できてうれしかったですね。
配属後は、研究開発担当としてモノづくりに携わっています。開発に携わりながらも、その先にあるお客さまや利益などを意識できているのは、モノづくり講座を通して事業プロセスを知ることができたおかげです。また、研修で抽象的なアイデアを具体化していたメンバーを見て、相手の言うことを正しく理解する力の重要性を実感しました。リーダーの意図がきちんと理解できないとチームとしての開発業務はうまくいかないので、わからないことはきちんと聞いて進めるよう心がけています。
学生の皆さんは、外に目を向けて視野を広げておくと、社会に出てから自分の財産になると思います。同じ新入社員研修の中に「私の挑戦」という課題もあり、私は内定期間中に中小企業で働く5人の技術者インタビューを行いました。最初は、「断られたらイヤだな」と腰が引けましたが、思いのほか快く受けてもらえましたね。思い切ってぶつかってみると実現できるものですし、中小企業技術者の志の高さがわかり、自分の視野が広がりました。
人事インタビュー
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谷口滋彦(たにぐち・しげひこ)●戦略本部人事教育グループ人財開発部人財育成課。2011年4月に入社し、秋田総務部に配属。秋田県内の工場での半年間の製造実習を経て、給与業務を担当。13年、テクニカルセンター(千葉県)に異動し、全社の給与業務に従事。15年7月からは、現部署にて新入社員教育など、教育研修の企画・運用に携わる。昨日できなかったことが今日はできるように、常に向上することを意識しながら日々の仕事に取り組んでいる。
この研修の目的は、事業プロセスの全容を理解すること。竹とんぼづくりを通して、商品企画、設計、原材料の調達、試作、原価計算、量産、品質管理、プレゼン、販売、利益確定という一連の流れを疑似体験することができます。また、「世界一○○な竹とんぼ」を考える過程で、お客さま視点の考え方を意識させる狙いもあります。
計画シートではコンセプトと概要をまとめ、新製品開発計画書では、自分たちの製品の市場規模、目標価格、競合品の有無などを調査。設計図に基づいて試作品をつくり、製造者への指示書となる工程管理表を作成します。材料費だけでなく量産にかかった人件費も原価に計上。自分たちで売価を決めて販売し、利益を出すというビジネスの基本も体験することができます。
出荷検査では、どのチームの竹とんぼも3秒以上飛ぶように全員で応援。自分のチームの成功だけでなく、他のチームの成功も自分のことのように喜んでいる姿が印象的です。出荷検査で数チームが脱落し、合格チームだけがプレゼンと販売会に参加。各チームのプレゼンを聞いたのち、研修参加者や関係者が気に入った竹とんぼを仮想マネーで購入します。成績は、品質保証グループの審査による工程管理表の精度、参加者の挙手によるプレゼンのアピール度、利益率で総合評価され、優勝チームが決定します。
モノづくりの疑似体験を通して、仕事の進め方を学び、管理の視点を養うだけでなく、自分たちで発案した「世界一○○な」を実現させることで、自主性も養われます。苦労を分かち合うことでチームワークも身につきますし、自分の役割や自分の得意なことも見えてくるので、その後の実務にスムーズに入っていけるようです。
学生時代は現状に甘んじてしまいがちですが、新しいことや、今より1段階上のレベルに挑戦する気持ちで行動してほしいと思います。社会で求められるのは、自分でゴールを定め、道筋を考えていける自律型人財。大学での研究やアルバイトでも、ゴールを定めて取り組むことで、自主性を養うことができるはず。あとは、いろんな人に会って新しい考え方を知り、刺激を受けることも大切ですね。
取材・文/笠井貞子 撮影/鈴木慶子