クリスティーナ・ライス●1995年生まれ、ノースカロライナ州(アメリカ)出身。中学のころ工学デザインをしたことをきっかけに、高校で機械工学に興味を持ち、プリンストン大学進学を決める。小さいころから教会の活動に積極的に参加する一方で、社交ダンスや武道のクラブに属する。10歳から始めた空手は有段者(黒帯)で、大学で日本語を習得中。
大学生活について
●プリンストン大学での最初の1年間はどうでしたか?
1年生では、いろんな授業や課外活動に挑戦しました。大学は2期制なので、授業は前期、後期とも5科目ずつ取りましたが、これは同級生では多い方です。基礎数学と物理学、コンピュータサイエンス、日本語の4科目を通年、それからあと1科目は、学期ごとに歴史や政治学など面白そうだなと思うものを取りました。機械工学専攻の人は、理系科目の課題が大変なので、宿題の多い語学系は敬遠しますが、日本語を取ることは入学前から決めていたんです。数学や物理の課題に加え、実験、レポート、それに日本語の予復習と本当に大変な1年間で、自分でもよく頑張ったと思います。課外活動は、社交ダンスとManna(マナ)とよばれるキリスト教の活動、それから空手の道場が大学内になかったので、武道クラブ(前期は合気道、後期は剣道)に入りました。次はテコンドーを取ろうかなと思っています。
●なぜプリンストン大学を選んだのですか?
高校卒業時、11校に願書を出し、そのうち5校から合格をもらいました。総合大学としてはプリンストン大学が一番有名ですが、機械工学では、MIT(マサチューセッツ工科大学)やデューク大学も優秀。ただ、合格した大学を見学した時、プリンストン大学が一番ピンときました。家族的な温かい雰囲気や質問に答えてくれた親切な先輩など、すべてが気に入りました。私は、ノースカロライナ州の公立の小さな高校出身なので、入学前の夏休みは、大学への準備としてダーラム市(ノースカロライナ州)のデューク大学で数学や科学などの授業を聴講していました。
●授業があるときはどんな一日ですか?
授業はだいたい毎朝9時から始まります。キャンパスまで2分くらいの家に女子大生4人でルームシェアしているので、8時半に起きれば十分間に合います。授業は日によってばらつきがあり、早い日は4時間、実験などで長引くと8時間以上学校にいることも。放課後は社交ダンスなどのクラブ活動をして、友達と食事し、帰宅後は深夜まで宿題に追われています。
●なぜ機械工学を専攻にしたのですか?
中学のころから、機械やモノを作ることに興味がありました。専攻の決め手は、高校の美術の時間。単位を取るために絵画の作製が必要だったのですが、苦手なので代わりに機械デザインをしたのがきっかけです。そのうちデザインだけでは飽き足らなくなって、技術系科目を履修するようになって…。勉強し始めると、機械工学の中でも、水道のインフラや水循環のシステムに興味を持つようになりましたね。やればやるほど奥が深く、大学1年生の時は、数学や物理学、情報処理などの基礎科目に加え、河川や湖などの水源から家庭用飲料水の排水処理方法などの水道システムの勉強をしました。
●水循環システムとは、具体的にどんなことを勉強するのですか?
地盤工学やデザイン工学、量子物理学など機械工学の応用・関連分野の勉強が必要です。水の循環システムの構築は、持続可能な社会の実現のために不可欠で、とてもやりがいがあります。1年生では主に家庭用飲料水のシステムを勉強しましたが、農業用水や雨水処理など、実際に発展途上国で利用できる排水システムの構築が必要だと感じました。大学3年の10月までに副専攻を決めなくてはいけませんが、開発学や代替エネルギー、環境問題などの知識も備えたいので、現在、模索中です。
●工学部には女性はどのくらいいますか?
数学が苦手とか、実験室が汚い、実験にかかる時間が長すぎてイヤとか、いろいろな理由を耳にしますが、アメリカでは理科系女子はいつも少数です。技術工学系となるとその数はさらに少なくなり、高校時代、技術系の女子は60人中たった3人でした。大学では、工学部系の女子学生は男子の3分の1で、男女比が半々になることは決してありません。機械工学を専攻する女性は、宇宙工学や生命工学、建築などに比べると、さらに少ないです。大学ではNGO「国境なき技術団」という活動に参加していて、女性の立場から、さまざまな国で働く機械工学系女性のあり方を研究しています。
プライベートについて
●アルバイトの経験は?
高校生に勉強を教えるアルバイトをしています。おもに、数学や物理などの理科系の科目で、最初は家庭教師や補講をしていました。今では、生徒同士で教え合うシステムを考えるなど教育の組織に携わるように。教え方とか教育現場での問題を解析していくことに興味があります。初めてのインターンシップも日本での教育関連の事業です。
●教育者に興味があるのですか?
教会での活動や空手道場で子どもたちと接しているうちに、教師を将来の職業にと考えた時期もあります。母は代用教員でしたし。機械工学の分野ではまだ女性の教授に会ったことがないので、少し社会で働いてから、機械工学部の女性教授として大学に戻ってくるという道にも興味がありますね。今のアメリカの教育システムは疑問に感じることが多く、すぐに教育の現場に立つ気にはなりませんが、常に気になる分野です。
●授業がない日はどうやって過ごしますか?
土曜日は社交ダンスのクラブで練習したり、時間があるときは高校に数学や理科の勉強を教えに行ったりして、ゆっくりと休んでいます。日曜日は朝10時から必ず大学の近くの教会へ行き、教会の活動や聖書の勉強会に出席しています。教会での活動は私の人生の大きな柱です。
●どうして空手を始めたのですか?
偶然が重なって、としか言いようがありません。10歳の時、父がそれまで習っていたチアダンスのクラスの申し込みを忘れてしまって、チアのクラスを取れなかったことがありました。それで仕方なく空席があった空手のクラスを取ることに。3、4カ月のことだと軽い気持ちで始めたのですが、まさか10年以上続けることになるなんて。私の人生はもう空手ぬきに語れません。空手の練習を通じ、集中力や忍耐力が身につき、それは毎日の生活にとても役に立っています。空手には決まった「型」があり、一見ダンスと同じように見えるのですが、大きく違うのは精神面。相手との間合いや自分のプライドと戦いながら、自らの体と心の声を聞くという感じがします。
●空手を習ったことで人生が変わりましたか?
小さいころの私は、落ち着きがなく、教室内にじっとしていることができず、特別な先生のサポートが必要な問題児でした。親や周囲がよく忍耐強く見守ってくれたと感謝しています。中学生になってから、だんだん落ち着いてきて、数学など理科系の科目にどんどんのめり込んでいきました。空手の道場に通うようになって、集中力や忍耐力を養えたことが影響していると思います。高校時代は1週間に6時間、3時間ずつ週2日は道場に通い、17歳の時有段試験に合格し黒帯をもらいました。習い始めたころは全然知りませんでしたが、空手の映画『ベスト・キッド』を見て、日本を身近に感じるようになり、大学で日本語を習っているのです。
●趣味はなんですか?
“モノづくり”が好きです。料理も好きで、お菓子作りが得意。チーズケーキやクッキーを焼いたり、ホームメイドのアイスクリームを作ったりするのが好きです。中でも、祖父直伝のチェリーピーチ味のアイスクリームには定評があります。教会のお祭りのときには、それを求めて行列ができるほどです。
●どんな本を読みますか?
SF、小説…なんでも読書は好きです。でも、やっぱり、『ハリー・ポッター』のシリーズが一番好き。今でもときどき手にしますね。とても美しい世界に憧れます。
●宝物は?
高校を卒業する時に自分で作ったこのチャームです。おばさんにもらったアクセサリーや、誕生日にもらった飾り、教会の十字架など、思い出の品を一つずつチャームに足していくんです。どこへ行くときも身につけている、お守りみたいなもの。落ち込んでいるときに、これをつけて散歩に行くと、力をもらえるような気がします。それから、高校のカウンセリングの先生がプレゼントしてくれたヒトデのネックレス。いつもチャームとネックレスのセットでつけています。以前、海岸で遊んでいた時に小さな男の子が「どうしていつもヒトデのネックレスをつけているの?」と言いながら、海から本物のヒトデを持ってきてくれたことがありました。その子のことを思い出すと、心が温まり、勇気が湧いてきます。
●卒業後の進路は決めていますか?
子どものころから、自分にしかできない、人とは違う何かをやりたいと思っていました。人類の生活の質が向上するものを創りたいっていう思いが強くあります。よく小さい子どもが「世の中をよくしたいんだ」って言うような感覚。水の勉強をすればするほど、地球上で自分が困っている人に貢献できることがあるのではないかと思うようになり、将来はそういう分野で自分が勉強してきた機械工学が生かせればいいなと思っています。これは、私が長年、教会での活動に携わっていることと関係があるかもしれませんね。
INFORMATION
取材・文/川瀬美加 撮影/刑部友康